昨日の朝、部長が
「これが机の上にあった」
と言って差し出したものは、社員Aさんの退職届であった。
部長の机の上に置いたまま、現場へでかけたとのこと。
中年も後半に差し掛かったAさんは、この猛暑のなか一生懸命働いているので、肉体的にも精神的にも疲れているのだろう、というのが部長と一致した見解である。
この日は、岡山県中小企業家同友会東備支部の役員会が予定されていたが、Aさんと話をすることの方を優先した。
夕方、Aさんの帰りを二階で仕事をしながら待っていたが、なかなか帰ってこない。
時々一階へ降りて、社員に「Aさん帰ったか。」と聞くが、「まだです。」との返事。
「Aさん現場から帰ってきたら、二階へ上がるように伝えといて。」
と言って、二階でまた仕事を続ける。
現場は県南だからそんなに遅くならないだろうと思っていたから、少し心配になりかけてきた。
そこへAさんが上がってきた。掛け時計の針は、午後7時半頃を指していた。
さっそくAさんと二人、会議用の机を挟んで座った。
私はいきなり
「やめるな!」
とAさんに言った。
「いやあ、もう、体がいうことをきかん。」
「歳じゃからしょうがねえが。どこかええ仕事があるんか。」
「ない。次の仕事のことは考えていない。」
「それなら、やめても困るじゃろうが。どこか良い就職先があるんなら仕方ないけど、体が思うように動かんというぐらいでやめるな。どこか体が悪いんか。」
「特に病気とか、体が悪いということはない。ただ、一日の仕事で、今日はこれくらいまでできるだろうと思ってやっていても、思ったところまでできない。それが自分でも情けない。」
「それは誰でも同じだ。歳をとたらとったのやり方がある。無理をせんでもええ。できるだけのことをしたらええ。」
「それでも、今日中にここまでやろうと思って頑張ったのに、夕方遅くまでやってもできないことがある。迷惑をかける。」
「だから、頑張ってもできんことはしょうがないが。無理して頑張らんでもええ。年金もらえるようになるぐらいまではやめるな。」
というような会話を繰り返した。
結局、Aさんは思いとどまった。
Aさんが、横着な人間なら引き止めなかったかも知れないが、性格は真面目で、猛暑の中を朝早くから夜遅くまでよく頑張っている。
この不景気のなか、次の仕事のことも考えずに、仕事が思うようにできないことに責任を感じて、やめると言いだすのはAさんらしい。
Aさんは、どちらかといえば、世渡りが不器用な方だと思う。このような人間を不景気の嵐が吹き荒れているなかへ、放り出すことはできない。
寄る年並みと共に
2010/09/08 社長ブログ